小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>の第20回公募では、一定の賃上げを行う事業者に対して、補助上限額を150万円引き上げる「賃金引上げ特例」が設けられています。
通常の補助上限額は50万円ですが、賃金引上げ特例の要件を満たすと最大200万円になります。さらに、所定の赤字要件を満たす事業者は、補助率が通常の2/3から3/4へ引き上げられます。
ただし、第20回公募の賃金引上げ特例では、従業員1人あたり給与支給総額を年平均3.0%以上増加させることが必要です。
単に一部の従業員の時給を上げればよいわけではありません。また、実績報告時に要件を満たせなかった場合は、上乗せ分だけでなく、補助金全体が交付されません。
この記事では、2026年第20回公募の賃金引上げ特例について、3%の計算方法、対象従業員、赤字事業者の条件、申請から実績報告までの手続き、未達時の扱いを解説します。
賃金引上げ特例とは?補助上限額が150万円上乗せされる制度
賃金引上げ特例は、従業員の給与を一定以上引き上げる小規模事業者に対し、小規模事業者持続化補助金の補助上限額を拡大する仕組みです。
第20回公募の補助上限額・補助率は次のとおりです。
| 区分 | 補助上限額 | 補助率 |
|---|---|---|
| 通常枠 | 50万円 | 2/3 |
| 賃金引上げ特例 | 200万円 | 2/3 |
| 賃金引上げ特例(赤字事業者) | 200万円 | 3/4 |
| 賃金引上げ特例+インボイス特例 | 250万円 | 2/3(赤字要件を満たす場合は3/4) |
賃金引上げ特例の「150万円上乗せ」とは、通常の上限50万円に150万円を加え、上限を200万円にするという意味です。
200万円が定額でもらえるわけではありません。実際の補助金額は、補助対象経費に補助率を掛けた額と補助上限額の範囲内で決まります。
赤字事業者は補助率3/4に引き上げ
賃金引上げ特例に取り組む事業者のうち、所定の赤字要件を満たす場合は、補助率が3/4になります。
例えば、補助対象経費が240万円の場合、補助金額の計算は次のようになります。
| 区分 | 計算 | 補助金額 |
|---|---|---|
| 通常の補助率2/3 | 240万円×2/3 | 160万円 |
| 赤字事業者の補助率3/4 | 240万円×3/4 | 180万円 |
いずれも賃金引上げ特例の上限200万円以内という前提で、赤字事業者の方が20万円多くなります。
※計算例です。実際の交付額は補助対象経費の審査や特例要件の達成状況などにより決まります。
賃金引上げ特例の要件は「給与支給総額3%以上の増加」
第20回公募の賃金引上げ特例では、従業員1人あたり給与支給総額を、比較対象となる前年の12か月に対して年平均3.0%以上増加させる必要があります。
比較するのは、補助事業実施期限日である2028年3月31日を終点とした連続12か月と、その前年同月の12か月です。
| 項目 | 対象期間 |
|---|---|
| 基準期間 | 2026年4月~2027年3月 |
| 賃上げ後の比較期間 | 2027年4月~2028年3月 |
| 必要な増加率 | 従業員1人あたり給与支給総額が3.0%以上増加 |
比較する2つの期間について、給与支給総額と従業員数から1人あたりの金額を算出します。
また、賃金引上げ特例を利用する場合、補助事業終了予定日は2028年3月31日に設定する必要があります。
給与支給総額に含まれるもの・含まれないもの
給与支給総額とは、従業員に支払った給与等の合計額です。
第20回公募では、次のように区分されています。
| 給与支給総額に含む | 給与支給総額に含まない |
|---|---|
| 基本給・給料 | 福利厚生費 |
| 賃金 | 法定福利費 |
| 残業代 | 退職金 |
| 賞与(ボーナス) | ― |
基本給だけでなく、残業代や賞与も給与支給総額に含まれます。
そのため、基本給を3%引き上げても、残業代や賞与が減少した結果、給与支給総額が3%以上増えないことがあります。
「基本給を3%上げる」ことと「1人あたり給与支給総額を3%増やす」ことは同じではありません。
賃金引上げ特例の計画を立てる際は、基本給だけでなく、残業代・賞与・従業員数の変動も考慮する必要があります。
給与支給総額3%の計算方法
賃金引上げ特例の達成状況を確認するには、基準期間と比較期間それぞれの「従業員1人あたり給与支給総額」を計算します。
1人あたり給与支給総額の計算式
1人あたり給与支給総額=給与支給総額÷従業員数
増加率=(比較期間の1人あたり給与支給総額÷基準期間の1人あたり給与支給総額-1)×100
ここでいう従業員数には、パートタイム従業員の勤務時間に応じた換算人数も含まれます。単純な在籍人数とは一致しない場合があります。
計算例:給与支給総額が3%増加した場合
対象従業員が2人で、比較する両期間とも人数が変わらないケースを考えます。
| 項目 | 基準期間 | 比較期間 |
|---|---|---|
| 給与支給総額 | 600万円 | 618万円 |
| 対象従業員数 | 2人 | 2人 |
| 1人あたり給与支給総額 | 300万円 | 309万円 |
この場合の増加率は、次のとおりです。
(309万円÷300万円-1)×100=3.0%
したがって、この計算例では、1人あたり給与支給総額3%増加の数値要件を満たします。
ただし、実際の判定では対象従業員の範囲、給与支給期間、必要書類など、ほかの条件も確認されます。
従業員数が変わる場合は単純計算できない
第20回公募の賃金引上げ特例では、対象従業員の範囲やパートタイム従業員の人数換算にルールがあります。
例えば、期間中に新たな従業員を採用した場合、その従業員を単純に人数へ加えるとは限りません。
また、パートタイム従業員は所定労働時間に応じて換算する必要があるため、正社員と同じ1人として数えないケースがあります。
従業員の入退社や勤務時間の変更が予定されている場合は、賃金引上げ目標の算出に影響しないか事前に確認しておきましょう。
賃金引上げ特例の対象従業員は誰?
第20回公募の賃金引上げ特例では、非常勤を含む従業員が対象となります。ただし、役員や専従者などは対象から除外されます。
また、給与支給総額の計算対象となる従業員は、原則として基準期間と比較期間のそれぞれで、全月分の給与等の支給を受けた従業員です。
対象となる従業員・対象外となる人
| 区分 | 取扱い |
|---|---|
| 正社員 | 所定の期間要件を満たせば対象 |
| パート・アルバイト | 期間要件を満たせば対象。勤務時間による人数換算が必要 |
| 非常勤従業員 | 対象になり得る |
| 代表者・役員 | 対象外 |
| 専従者 | 対象外 |
| 対象期間の途中で採用・退職した従業員 | 原則として対象となる給与計算から除外 |
産前産後休業、育児休業、介護休業などに伴う時短勤務の従業員については、一定の取扱いにより算出対象から除くことができます。
パートタイム従業員は勤務時間で換算する
パートタイム従業員は、正社員の所定労働時間に換算して従業員数を算出します。
例えば、正社員が週35時間勤務、パートタイム従業員が週15時間勤務の場合は、次のようになります。
15時間÷35時間=0.428…
小数点以下第3位を切り捨てるため、0.42人として換算します。
このように、賃金引上げ特例の計算では、パートタイム従業員を一律に1人として数えるわけではありません。
従業員が退職した場合はどうなる?
従業員の退職は、賃金引上げ特例の達成判定に影響する可能性があります。
第20回公募では、基準期間または比較期間のいずれかで算定対象となる従業員が存在せず、1人あたり給与支給総額を計算できない場合は、賃金引上げ特例の対象外となります。
申請時点で条件を満たしていても、その後の退職などによって計算できなくなる場合があるため、少人数の事業者は特に注意が必要です。
赤字事業者の補助率3/4を利用するための条件
賃金引上げ特例では、所定の赤字要件を満たす事業者に対して、補助率を2/3から3/4に引き上げる措置が設けられています。
ただし、単に資金繰りが厳しい、売上が減ったというだけでは赤字事業者には該当しません。
第20回公募では、直近1期または直近1年間の課税所得金額がゼロ以下であることが追加要件です。
法人の場合
法人は、直近1期分の法人税申告書の別表一・別表四に記載される「所得金額又は欠損金額」により確認します。
賃金引上げ特例の赤字事業者として申請する場合、直近1期に税務署へ提出した法人税申告書の別表一・別表四の写しを提出する必要があります。
個人事業主の場合
個人事業主は、直近1年間の所得税及び復興特別所得税の確定申告書第一表にある「課税される所得金額」により判断します。
赤字事業者として申請する場合は、該当する確定申告書第一表の写しを提出します。
赤字判定は、会計上の損益や売上高だけで判断しないでください。
法人と個人事業主では確認する税務申告書の項目が異なります。第20回公募で指定された課税所得金額を確認する必要があります。
赤字事業者は赤字賃上げ加点も適用される
賃金引上げ特例の赤字事業者を希望した場合、賃金引上げ加点に加えて赤字賃上げ加点が自動的に適用されます。
ただし、加点の対象となることは採択を保証するものではありません。事業計画の内容なども審査されます。
賃金引上げ特例の申請方法と必要書類
第20回公募の賃金引上げ特例では、申請時、採択後から交付決定まで、実績報告時のそれぞれで必要な手続きがあります。
申請時に行うこと
- 電子申請システムで賃金引上げ特例を選択する
- 賃金引上げ特例・賃金引上げ加点の申請に係る誓約・同意書(様式7)を確認し、該当項目にチェックする
- 赤字事業者として申請する場合は、指定された税務申告書類を提出する
第20回公募では、申請時の賃金引上げ特例の選択に加え、採択後にも目標値設定などの手続きが必要になります。
採択後から交付決定までに行うこと
採択後は、給与支給総額基準値算出表に必要な情報を入力し、1人あたり給与支給総額の基準値と目標値を設定します。
また、賃金引上げ計画を全従業員または従業員代表者、役員に表明する必要があります。
提出が必要となる主な書類は次のとおりです。
- 採択発表日の属する月を終点とした連続12か月分の賃金台帳の写し
- 1日の所定労働時間や年間休日が分かる雇用契約書・労働条件通知書などの写し
これらの書類は、役員・専従者を除く補助事業実施場所の全従業員分が必要です。
実績報告時に行うこと
実績報告では、賃金引上げ目標が達成されたかを確認するため、次のような書類を提出します。
- 補助事業実施期限日を終点とした連続12か月分の賃金台帳の写し
- 賃金引上げ後の雇用条件を確認できる雇用契約書・労働条件通知書などの写し
申請した目標を達成していることに加え、必要書類をそろえて確認を受ける必要があります。
また、比較する両期間において、支給している事業場内最低賃金が地域別最低賃金以上であることも必要です。
賃金引上げ特例が未達の場合はどうなる?
第20回公募の賃金引上げ特例で最も注意したいのが、賃金引上げ目標を達成できなかった場合の取扱いです。
賃金引上げ特例の要件を満たせなかった場合、上乗せの150万円だけでなく、補助金全体が交付されません。
例えば、賃金引上げ特例で補助金200万円の交付を予定していても、実績報告時に3%の賃上げ要件を満たしていなければ、通常枠の50万円だけが交付されるという仕組みではありません。
また、申請時点では従業員がいても、退職などによって比較に必要な従業員がいなくなり、給与支給総額を算出できなくなった場合も、補助金が交付されません。
未達になりやすいケース
賃金引上げ特例を検討する際は、次のようなケースに注意してください。
- 基本給を引き上げたものの、残業代や賞与が減り、給与支給総額の増加率が3%未満になった
- 従業員の退職によって比較に必要な対象従業員がいなくなった
- パートタイム従業員の勤務時間が変わり、人数換算や給与支給総額の計算に影響した
- 必要な期間の賃金台帳や雇用条件書類をそろえられなかった
このようなリスクがあるため、賃金引上げ特例では、目標を3%ちょうどに設定するよりも、給与の変動を考慮した実現可能な賃上げ計画を検討することが大切です。
未達の場合、今後の補助金申請にも影響する?
第20回公募では、賃金引上げ特例や賃金引上げ加点を受けて採択されたにもかかわらず、申請した賃上げ要件を達成できなかった場合、今後の補助金申請にも影響する規定があります。
事業効果および賃金引上げ等状況報告書(様式第14)に未達が報告されてから18か月間、中小企業庁所管の対象補助金への申請にあたり、正当な理由が認められない限り大幅な減点が行われます。
ただし、災害によって事業に著しい損失が生じた場合など、やむを得ない理由が認められた場合には、減点が免除されることがあります。
なお、この18か月間の減点措置と、実績報告時に賃金引上げ特例の要件を満たさない場合の補助金不交付は、別の取扱いです。
賃金引上げ特例と賃金引上げ加点の違い
第20回公募には、補助上限額を引き上げる「賃金引上げ特例」と、採択審査で評価される「賃金引上げ加点」があります。
名称が似ていますが、必要な賃上げ率と制度上の効果は異なります。
| 項目 | 賃金引上げ特例 | 賃金引上げ加点 |
|---|---|---|
| 必要な増加率 | 3.0%以上 | 2.0%以上 |
| 主な効果 | 補助上限額150万円上乗せ | 採択審査で加点 |
| 赤字事業者への補助率優遇 | 要件を満たせば3/4 | 加点のみでは補助率優遇なし |
| 未達時 | 補助金全体が不交付 | 交付されない要件があり、将来の申請で減点される場合がある |
賃金引上げ特例を希望すると、賃金引上げ加点も自動的に適用されます。
ただし、賃金引上げ加点だけを希望した場合、補助上限額が150万円増えるわけではありません。
賃金引上げ特例の3%達成が難しい場合は、2%の賃金引上げ加点を含め、どの申請方法が自社に適しているか検討する必要があります。
賃金引上げ特例を申請する前に確認したいこと
賃金引上げ特例を利用する場合は、補助金の上限額だけで判断せず、賃上げの実現可能性と未達リスクを確認しましょう。
- 比較する2つの12か月間の給与データを確認できる
- 3%の計算対象となる従業員が存在する
- 役員・専従者・途中入退社者の取扱いを確認した
- パートタイム従業員の勤務時間による人数換算を確認した
- 残業代や賞与の変動を考慮しても目標達成を見込める
- 2028年3月31日を補助事業終了予定日として計画できる
- 採択後に必要な賃金台帳や雇用条件書類を準備できる
- 要件未達時には補助金全体が不交付となるリスクを理解している
従業員が少ない事業者ほど、1人の退職や勤務時間の変更が計算結果に影響しやすくなります。
賃金引上げ特例を選択する前に、対象従業員を整理し、給与支給総額の実績と将来の見込みを確認することをおすすめします。
賃金引上げ特例のよくある質問
Q.従業員がいない個人事業主でも賃金引上げ特例を利用できますか?
従業員がいない個人事業主は、原則として賃金引上げ特例を利用できません。
第20回公募では、比較対象となる期間に給与支給総額の算定対象従業員が存在する必要があります。事業主本人の所得を増やすことでは、賃金引上げ特例の要件を満たせません。
Q.パートやアルバイトだけでも申請できますか?
パート・アルバイトのみを雇用している事業者でも、期間要件などを満たせば賃金引上げ特例の対象になり得ます。
ただし、勤務時間に応じた人数換算が必要で、対象期間中の給与支給状況も確認されます。
Q.時給を3%上げれば条件を満たせますか?
時給を3%上げるだけでは、賃金引上げ特例の達成は確定しません。
第20回公募では、従業員1人あたり給与支給総額の年平均増加率が3.0%以上であることが必要です。勤務時間の変動や残業代、賞与なども結果に影響します。
Q.給与支給総額には賞与も含まれますか?
はい。第20回公募では、給与支給総額に賞与や残業代が含まれます。
一方、福利厚生費、法定福利費、退職金は含まれません。
Q.赤字なら必ず補助率3/4になりますか?
いいえ。赤字であることに加え、賃金引上げ特例の要件を満たす必要があります。
また、赤字判定は、法人では直近1期の法人税申告書、個人事業主では直近1年間の所得税確定申告書に記載された指定の課税所得金額により行います。
Q.賃金引上げ特例が未達でも通常枠の50万円はもらえますか?
いいえ。賃金引上げ特例の要件を満たせなかった場合、上乗せ分だけでなく補助金全体が交付されません。
賃上げの目標達成が難しい可能性がある場合は、申請時点で特例の利用を慎重に検討する必要があります。
まとめ:150万円上乗せだけでなく、3%達成の実現可能性を確認する
小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>第20回公募の賃金引上げ特例は、従業員1人あたり給与支給総額を年平均3.0%以上増やすことで、補助上限額が通常の50万円から200万円へ引き上げられる制度です。
赤字要件を満たす事業者は補助率3/4の優遇も受けられますが、実績報告時に賃金引上げ要件を満たせなかった場合、補助金全体が交付されません。
賃金引上げ特例を検討する際は、対象従業員、給与支給総額の計算方法、退職や勤務時間の変動、必要書類まで確認し、達成できる計画を立てましょう。
参考:小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>第20回公募 公募要領(第8版・2026年7月21日)/商工会地区 補助金事務局公式サイト/商工会議所地区 補助金事務局公式サイト
https://official.jizokukanb.com/shinsei
https://r6.jizokukahojokin.info/